大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1882号 判決 1954年3月17日

控訴人 被告 日本物産株式会社

訴訟代理人 杉本粂太郎

被控訴人 原告 渡部哲彌

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、適式の呼出を受けながら、当審における本件口頭弁論期日に出頭しない。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、「(一)原判決二枚目裏三行目に「昭和二十五年四月十日小切手の割合」とあるのは、「昭和二十七年四月十日小切手の割引」の誤記であるから、これを訂正する。(二)本件小切手は郵便振替貯金法に基いて振り出されたもので、同法によれば指図禁止の小切手である。従つて受取人を指定し得る者は振出人だけであつて、その他の者の受取人の記人は不適法である。しかして本件においては、被控訴人が受取人の補充をしたのであつて、右補充は無効であつて、被控訴人は本件小切手の受取人ではない。(三)本件小切手には支払地及び振出地として東京都としか記載してないから、小切手としては不完全であつて、被控訴人の請求は失当である。」と述べた外、原判決事実摘示記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

証拠として、被控訴人は、甲第一号証を提出し、原審証人田路勘吉、矢沢清の各証言を援用し、控訴代理人は、原審及び当審における控訴会社(被告)代表者梅岡敏次尋問の結果を援用し、甲第一号証の成立を認めた。

理由

控訴人が昭和二十七年四月中、金額四万五千円、振出日昭和二十七年四月二十五日、支払地及び振出地はいずれも東京都、支払人日本橋郵便局、振出人東京都中央区日本橋小綱町二丁目八ノ一日本物産株式会社(控訴人)取締役社長梅岡敏次と記載し、受取人欄を白地のままとした小切手一通を振り出したことは当事者間争なく、原審証人田路勘吉、矢沢清の各証言を綜合すれば、右小切手は控訴人が田路勘吉に依頼した控訴人のために全国購買農業協同組合連合会から注文書を入手するための報酬の支払にあてる趣旨で昭和二十七年四月十日頃控訴人が矢沢清、依田実立会の上田路勘吉に交付したものであることが認められる。控訴人は、右小切手は割引依頼のため依田実に交付したものであつて、控訴人はまだ右割引金を受けとつてないと主張するけれども、右主張にそうが如き原審並びに当審における控訴会社(被告)代表者梅岡敏次の供述は当裁判所の信用しないところで、これをおいて他に控訴人の右主張事実を認めるに足る証拠はない。

しかして成立に争のない甲第一号証と前掲証人田路勘吉の証言を綜合すれば、田路勘吉が本件小切手の交付を受けた翌日本件小切手を被控訴人に割引のため譲渡し、白地であつた受取人欄に被控訴人の氏名が記入されたこと、本件小切手が昭和二十七年四月二十六日支払のため支払人に呈示されたが支払を拒絶されたので、支払人をして本件小切手に呈示の日を表示して記載し、かつ日附を附した支払人の支払拒絶宜言を記載せしめたことを認めることができる。

控訴人は、第一に本件小切手の受取人の補充記載は無効であると主張しているので按ずるに、郵便振替貯金法第三十八条第三項、郵便振替貯金規則第七十四条によれば、郵便振替貯金加入者は特別の場合に所属口座所管庁が承認した場合の外は郵便局を支払人とする小切手は記名式でかつ指図禁止の小切手のみを振り出さなければならないと規定されているけれども、右規定は支払人である郵便局の小切手支払についての事務処理を簡単ならしめることを目的とした規定と認められ、振出人が受取人欄の記載をなさず、いわゆる白地小切手を振り出し、受取人欄の記載を他人に委託することまで禁じた趣旨とは解し難い。

しかして本件の場合は、控訴人が田路勘吉に対し受取人の記載を委託したことが前掲勘吉の証言によつて認められるから、前段認定の本件小切手の受取人の補充記載は適法といわなければならない。原審並びに当審における控訴会社(被告)代表者本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用しない。

控訴人は、第二に、本件小切手の振出地及び支払地の記載は不完全で、よつてもつて本件小切手を無効ならしむるが如き主張をしているので按ずるに、小切手に記載すべき振出地及び支払地は最小行政区画たる地域を表示すべきものであり、東京都における独立した最小行政区画は区、市、町、村であるから、本件の場合は振出地及び支払地として東京都という表示は不適法である。しかしながら、小切手法第二条第四項により振出人の名称に附記した地、すなわち本件においては東京都中央区日本橋小網町二丁目八ノ一において振り出したものとみなされ、更に支払地については本件小切手には支払人として日本橋郵便局と記載してあることから、支払地が東京都中央区であることを推知するに十分であるから、振出地及び支払地はそれぞれ適法に表示せられているものというべく、本件小切手は法定の要件を具備し居るものというべきである。

よつて被控訴人の控訴人に対する償還請求は正当としてこれを認容すべく、これを認容した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 大江保直 判事 岡咲恕一 判事 猪俣幸一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例